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コラム 2022.06.08 “海の下の力持ち” 今昔、海底ケーブル物語

KDDI America


 海底ケーブルとはその文字のとおり、海で隔てられている地域間をケーブルで直接つなぎ、情報のやりとりをするための設備。その歴史は意外にもとても長く、1850年にイギリスとフランスの間のドーバー海峡に開通し、両国をつないだものが最初と言われている。現在では、約120万km、地球およそ30周分もの距離が世界中に張り巡らされている。

時代を支える海底ケーブル

 日本にも多くの海底ケーブルが存在するが、その先駆けとなったのが1964(昭和39)年にKDDIの前身の一つである国際電信電話(KDD)が米AT&T社とハワイ電話会社と共に敷設した世界初の太平洋横断電話ケーブルである第一太平洋横断ケーブル「TPC-1」である。当時、国際電話で一般的だった短波通信では、接続時間が長く、雑音も多く、相互に同時に会話ができない等の問題があったが、TPC-1によりこれらの問題が解消された。TPC-1の技術は、その後の光ファイバー海底ケーブル建設技術の基礎となり、現在のインターネット時代の主要な通信インフラ技術に大きく貢献した事が認められ、2014年には「IEEEマイルストーン」(注1.2)に認定されている。この賞は、グラハム・ベルの電話など、社会に大きく貢献した発明などに与えられるものである。

 日米間の海底ケーブルの開通にあたっては、当時の池田首相と米ジョンソン大統領による、「TPC-1」を用いた初めての国際電話が行われた。

 ちなみに、日本における国際通信は1871年(明治4年)にその運用を開始し、今年2021年は150年目の節目の年である。

グローバル通信を支える海の下の力持ち

 そもそも海底ケーブルとは実際どんなものだろうか。

 その名前のとおり、海の底を這うように通信ケーブルが敷設されているわけだが、さまざまなサイズのケーブルを継いで、大陸間を結んでいる。つまり1本で大陸間を結ぶのではなく、いくつものケーブルを中継器と呼ばれる装置を介しながら何千kmと結んでいくのである。
 現在の海底ケーブルは光海底ケーブルと言われ、昔の電気信号を金属の線に通すメタルケーブルで送信するものに比べて、長距離通信をしても減衰が少なく、安定した通信が可能という特長がある。光ケーブルは、光ファイバーと呼ばれる人間の毛髪程の細さの線が集まって作られたケーブルである。電気信号を光の信号に変換して、この光ファイバーを通すことで通信を行うものである。

 海底ケーブルについて簡単に理解いただけたかと思うが、何千kmにも及ぶ海底ケーブルはどのようにして海の底に敷設されるのだろうか。

 その答えは「船」である。ケーブルシップと呼ばれるケーブル敷設船をKDDIでは、現在2隻保有している。(最新のKDDIケーブルインフィニティで4隻目となる。)あらかじめ敷設する長さのケーブルを陸上でつくり、綿密なテストをしたうえで船に積み込む。長いケーブルの場合、積み込みだけでも1カ月以上かかることもある。

 ケーブルシップはゆっくりとケーブルを海底に降ろしながら、目的地に向かって進む。ケーブルは海底を這わせるように敷設され、陸地に近い水深の浅いところでは、ロボットを使った埋設も行われる。両端の陸揚げは、沖合に停泊したケーブルシップから、ケーブルの先端に結び付けたロープを陸地まで引っ張り、引き上げるのである。
 敷設が完了し、実際の運用を開始してもトラブルは起こる。それがケーブルの断線や破損であるが、その要因はさまざまで、海底地震や海流によってケーブルが動き擦り切れることもあれば、漁業に使用される漁具(碇や網など)で引き裂かれることもある。さらにサメに嚙み切られるといったことまで起こる。そうなると通信に影響を及ぼすのだが、24時間365日監視されており、このような場合、ケーブルシップが障害海域に急行してケーブルの修理を行う。ケーブルの修理作業は通常、①ケーブル障害位置の特定、②障害ケーブルのケーブルシップへの引き揚げ、③ケーブル障害箇所の切断・除去、④ケーブルシップタンク内の予備ケーブルと引き揚げてきたケーブルとの接続、⑤確認試験・再敷設、の手順からなる。

 世界では年間に前述したような要因の障害がおおよそ100回発生しており、そのたびケーブルシップが現場に急行し海上でその復旧作業が実施されるのである。

 ケーブルシップはゆっくりとケーブルを海底に降ろしながら、目的地に向かって進む。ケーブルは海底を這わせるように敷設され、陸地に近い水深の浅いところでは、ロボットを使った埋設も行われる。両端の陸揚げは、沖合に停泊したケーブルシップから、ケーブルの先端に結び付けたロープを陸地まで引っ張り、引き上げるのである。
 敷設が完了し、実際の運用を開始してもトラブルは起こる。それがケーブルの断線や破損であるが、その要因はさまざまで、海底地震や海流によってケーブルが動き擦り切れることもあれば、漁業に使用される漁具(碇や網など)で引き裂かれることもある。さらにサメに嚙み切られるといったことまで起こる。そうなると通信に影響を及ぼすのだが、24時間365日監視されており、このような場合、ケーブルシップが障害海域に急行してケーブルの修理を行う。ケーブルの修理作業は通常、①ケーブル障害位置の特定、②障害ケーブルのケーブルシップへの引き揚げ、③ケーブル障害箇所の切断・除去、④ケーブルシップタンク内の予備ケーブルと引き揚げてきたケーブルとの接続、⑤確認試験・再敷設、の手順からなる。

 世界では年間に前述したような要因の障害がおおよそ100回発生しており、そのたびケーブルシップが現場に急行し海上でその復旧作業が実施されるのである。

 余談ではあるが、2018年9月に発生した北海道胆振東部地震の際には、世界で初めての海上からの通信復旧をこのケーブルシップKDDIオーシャンリンクを船舶型基地局として運用することで通信復旧に努めた。この時の通信カバー能力は半径20kmにも及んだ。

 2016年には日米間を結ぶ光海底ケーブルFASTERがその運用を開始している。総延長約9,000km、千葉県南房総市および三重県志摩市とアメリカ・オレゴン州を結ぶ。当初の設計容量は当時の世界最大規模の60Tbps(T=テラは1兆)。増大する日米間のデータ通信需要に応えると同時に、当時主力となっていた日米間光海底ケーブルUnityのバックアップとして建設された。60Tbpsがどれぐらいの速度か想像できない方がほとんどかと思うが、2秒間でDVDのデータ約3,000枚分が送信できるほどの速さである。

 まさに海底ケーブルは私たちの生活の柱になりつつある通信インフラを支える縁の下の力持ちならぬ、「海の下の力持ち」である。

私たちの生活に溶け込む国際通信

 今年は2020年東京オリンピック・パラリンピックが1年遅れで開催された。また、コロナ禍で家にいる時間も増えた影響で、動画配信サービスの飛躍的な普及が目立った。ここで1つ質問を投げかけてみたい。

 「なぜ私たちは遠く離れた国、地域で開催されている国際大会や、海外事業者の動画配信サービスをリアルタイム、もしくはストリーミング配信で視聴できるのだろうか」

 この答えは「海底ケーブルのおかげ」である。一昔前のテレビ中継は衛星経由での通信が主流であり、「衛星生中継」といった文字をテレビのスポーツ中継等で見たことのある方も少なくないかもしれないが、いまではそのほとんどがこの海底ケーブルを経由して私たちのもとに届いている。なぜなら、インターネットのような大容量の通信の場合、衛星通信に比べて海底ケーブルが圧倒的に優位になるからだ。実は現在、海外からの多くの映像は、KDDIが運用している光海底ケーブルを利用して日本に届けられている。日本と海外との通信の99%が利用する光海底ケーブルは、いまや国際間の通信に欠かせない重要なインフラであることがわかる。

 例えば、今シーズンは日本人選手の活躍も著しく、アメリカ国内のみならず、以前にも増して日本でも関心が高まっているメジャーリーグ。これも海底ケーブル通信によって映像が届けられている。日本にいながらもリアルタイムで遅延や画像の乱れなく、鮮明な映像を視聴できるのは海底ケーブルあってこそなのだ。

 ちなみに、日本初となる海底ケーブルが完成した1964(昭和39)年には、東京オリンピックが開催されているが、この国際放送に使用されたのは衛星通信であった。また、日本における初めての衛星通信は、1963年に起こったアメリカ大統領暗殺事件のニュースであった。

 昨年2020年には、アジア各国と日本、アメリカをつなぐ新たなルートとして、「SOUTH EAST ASIA-JAPAN 2 CABLE」(以下、SJC2)が完成した。日本とアジア各国を結び総延長は約1万1000kmにも及ぶ。SJC2は、アジア各国と日本をつなぎ、日米間光海底ケーブルFASTERなどの太平洋を横断するケーブルに乗り換えてアメリカとつながる。今後さらに高まるトラフィックに対応した大容量ケーブルで、設計容量の最大能力を発揮した場合、4Kの高精細映像を約500万人が同時にストリーミング視聴することができ、アジア各国で増加する動画視聴やクラウド利用、IoTの活用といった通信需要にも十分応えられる。

これからの私たちの生活と通信技術

 動画視聴やクラウド利用、IoTの活用をはじめ、トラフィックの増加が著しい現代であるが、昨年2020年には、新たな通信規格「5G」注3の商用サービスの提供が開始された。

 これによってスポーツの観戦方法なども大きく変わるかもしれない。例えば5Gの高速通信によってARグラスに映し出されたピッチ上の映像に、試合情報や演出などバーチャルの視覚情報を重ねて表示するARスタッツを投影。チームや選手などの情報がピッチ上の映像と重なって表示されたり、スコアが動いたときに演出が表示されたりする。このARスタッツも5G通信なので、まるでテレビ放送を同時に観ているかのように、ほぼリアルタイムで情報が表示される。これにより、肉眼で試合を観るのとはまったく違った視点で観戦体験ができるようになる。

 また、5Gの高速通信を支える新たな技術として、Content delivery network :コンテンツデリバリネットワーク(以下、CDN)や、Multi-access edge computing :マルチアクセスエッジコンピューティング(以下、MEC)が注目されている。

 前者は、同一のコンテンツを、 多くの配布先、例えば多くのユーザーの端末に効率的に配布するために使われる仕組みである。後者は、サーバーを端末の近くに分散配置することで、今までクラウドで行っていた処理(の一部)を超低遅延で使えるようにするネットワークコンピューティング技法「エッジコンピューティング」の規格のことである。

 これらに共通することは、レスポンスやダウンロードに遅延がなくなる技術であるということである。

 ここまで話してきたとおり、ますます大容量化する通信を支える技術として注目されており、KDDIも海底ケーブルのような従来のインフラ設備の高度化はもちろんのこと、これからの時代を支えていく新たな技術の研究開発にも力を注いでいく。
 私たちの生活にいまやなくてはならない通信インフラに加えて、その生活がよりよく、よりワクワクするものとなるため、さらに地球規模で抱える社会課題解決の一翼を担う存在として、今後も海底ケーブル/KDDIは私たち生活を支えていく。

注)本稿は、2021年11月に執筆され、U.S. JAPAN PUBLICATION N.Y., INC.にて発行しているCOME TO AMERICA DELUXE 2022 企業概況に掲載されている記事です。

*注1) IEEE (アイ・トリプル・イー) は、米国に本部を置く、世界190カ国約42万人以上の会員を擁する世界最大の電気電子技術者の組織
*注2) IEEEマイルストーンは、電気・電子・情報関連の分野において、技術的に優れていると同時に社会に大きく貢献した発明や技術開発を讃えるため、1983年に制定された顕彰制度で、現在、世界で147件以上が認定されている。認定の対象は発明・開発から25年以上が経過し、世の中の評価に十分耐えてきたものから選出される
*注3) 次世代通信技術のことで、「高速大容量・低遅延・多接続性」を生かし、普及すればあらゆるものがネットワークにつながるIoT化が進むと言われている。映像機器や自動運転車、産業ロボット、建設機械、医療機器など、5Gに対応した新しい技術の発展が期待されている

KDDIアメリカ

KDDIアメリカ(本社:ニューヨーク、CEO:延原 正敏)は、1989年に設立され、以降30年にわたりワンストップのICTソリューションを提供しています。米国に8拠点展開し、サービスエリアは北米だけでなく中南米もカバーしています。

お客さまに最適なデジタルトランスフォーメーションを実現するべく、近年は、既存のICTソリューションの提供だけでなく、アプリケーション分野におけるコンサル・構築などを強化しています。

こうした取組みをとおして、お客さまの挑戦を全力でサポートしていきます。

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執筆者

KDDI America
中田 晃史 / Nakata Akifumi
Marketing Manager

2017年KDDI株式会社に新卒で入社。KDDIにおける事業継続計画(BCP)の策定に4年間従事。各省庁、関係機関との連携体制の構築や、災害時の通信早期復旧および事業継続に係る取決めなどを広く経験。2021年よりKDDIアメリカに出向し、マーケティングを担当。
独・フンボルト大学(ベルリン大学)および法政大学卒。専門は統計学、経済学。

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